- 大谷翔平投手に発生した屈曲回内筋群損傷について
- 屈曲回内筋群損傷が起きてしまう原因について
- 肘にばかり着目していたら、また肘のトラブルが起きてしまう理由について
二刀流で世界と戦う日本の侍「大谷翔平」選手。
つい先日〈8月2日(日本時間3日)〉のアストロズ戦に先発し、2回途中降板した。
その後、右肘の違和感を訴え、MRI検査を3日(日本時間4日)に受けたとされている。
その結果、右屈曲回内筋群の損傷と診断され、投球再開までに4〜6週間を要する事になった。
多くの日本ファンが大谷選手の投球を待望にしていただけあって、今回の怪我は大丈夫なのか?という心配があるはずだ。
大谷選手は過去に
過去の怪我
- 2018年に右肘のトミー・ジョン手術
- 2019年に左膝の二分膝蓋骨(分裂膝蓋骨)の手術
を受けている。
これらの手術は今回の「右屈曲回内筋群の損傷」にはたして関係があるのだろうか?と皆感じているはずだ。
私の意見としてはこれらの手術の因果関係は確実にあると考えている。
今回は理学療法士である私が大谷選手に降りかかった右屈曲回内筋群の損傷の原因について、皆様にも分かりやすいように考察していく。
※柔YAWARAがこちらの動画内で大谷翔平投手の右屈曲回内筋群損傷の原因が左膝にあるという理由について詳しく解説しております。
右屈曲回内筋群損傷しか見ていないと投手として今後痛い目を見る可能性がある
まず私の考察結果を述べたい。
今回大谷翔平投手がなった右屈曲回内筋群損傷を招いた原因は左膝の二分膝蓋骨の影響が非常に大きいと考えている。
まずはこの二つの動画を見ていただきたい。
YouTubeに上がっていた今回怪我をした時の大谷翔平投手のピッチングと日本にいてバシバシ三振をとっていた時のピッチングの動画である。
※右屈曲回内筋群損傷をした時のアストロズ戦の動画
※日本でバシバシ三振をとっていた時のピッチング動画
見比べて見て気づいた事があるはずだ。
私が気づいた点はこちらとなる。
気づいた点
- アストロズ戦では大きくゆったりとしたフォームになっている。
- 日本にいた時と比べアストロズ戦では下半身のブレが大きくなっている。
- 下半身のブレとともに制球が乱れている。
皆様も変化として、大きくこの3点が目についたのではないだろうか?
また大谷投手の今回の肘の怪我について多くの記事はこのように書いている。
多くの記事で書いてある事
- メジャーで投球できるレベルまで来ているので大谷選手が受けたトミー・ジョン手術の影響は少ない。
- トミー・ジョン手術は成功しているから問題ない。
- トミー・ジョン手術を受けて1年半経ってプレーできているので大丈夫だ。
- 制球が悪いせいでスライダーなどの変化球の負担がかかった為今回痛めてしまったのだ。
参考:大谷のトミー・ジョン手術は成功 打者でのプレーに影響なし
参考:トミー・ジョン手術の権威・古島医師が診断分析 制球悪く力んで筋肉に疲労生み…軽度なら打者は問題なし
しかし、私が考えるにこれらの考えはあまりにも患部しか見ておらず、若干見当違いな意見だと感じてしまう。
現在の大谷選手の肘の動きや筋力がどの状態なのか?という疑問はあるが確かにトミー・ジョンの手術は成功していることは間違い無いはずだ。
また制球が悪い事によって負担がかかったのもそうだと思う。
だがここでもっと考えなければならないのは、以下の2点だ。
考えるべきPOINT
- なぜ制球が悪くなっているのか?
- なぜ肘に負担がかかる様になってしまっているのか?
これら2つはやはり昨年手術した二分膝蓋骨(分裂膝蓋骨)の影響が大いにあると私は感じている。
この問題を解決しないと投手として活躍する上で今後痛い目を見続けることになるだろう。
そもそも大谷選手が投げられなくなった屈曲回内筋群損傷とは何なのか?
まず屈曲回内筋群とはどこの事を指しているのかについて説明していく。
屈曲回内筋群とは前腕の掌側にある筋肉の集まりの総称である。
ご覧の通り前腕の掌側には非常たくさんの筋肉が集まっている。
特に「橈側手根屈筋」「尺側手根屈筋」「浅指屈筋」「長掌筋」と呼ばれる筋肉が前腕にある屈筋群である。(※その他にもまだまだ筋肉がある)
※橈側手根屈筋
※尺側手根屈筋
※浅指屈筋
※長掌筋
また「円回内筋」は前腕にある回内筋群の代表である。(※その他にも回内の作用をする筋肉はある)
※円回内筋
この屈曲回内筋群の特徴としては、ほとんどの筋肉が肘の内側についているという事である。
肘の内側と聞くと、多くの方がこう思われるかもしれない。
トミー・ジョン手術の影響が出ているのではないのか?
それについても簡単に考察してみた。
過去に手術したトミー・ジョン手術は成功しているが少なからず影響は出ているかもしれない
私の意見ではトミー・ジョン手術は成功はしているが、少なからず肘に痛みが出やすい環境にはなってていると考えている。
トミー・ジョン手術とは肘の内側側副靱帯の再建手術のことである。
※肘の内側側副靱帯はこのように肘の内側についている。
皆様もご存知の通り、2018年10月、ちょうど1年半以上前に右肘のトミー・ジョン手術(内側側副靱帯再建手術)を受けている。
トミー・ジョン手術には『ジョーブ法』『伊藤法』などの方法がある。
『ジョーブ法』では再建する靭帯を8字にして移植する方法である。
『伊藤法』では靭帯を通す穴に骨を移植する方法で、ジョーブ法よりも強固と言われている。
トミー・ジョン手術は身体の別の場所から腱を採取して(主に長掌筋腱を使用して再建する事が多い)損傷した靭帯を再建するものである。
いずれの方法でも肘に起きる事
- 肘にメスを入れて組織を傷つける。
- 再建するためにどこかの腱を採取しなければならない。
実際、大谷選手はトミー・ジョン手術を受けて1年半以上経ち、ようやくメジャーの舞台に戻ったので肘の内側側副靱帯に関しては修復して手術は成功したと考えられる。
しかし、肘の内側側副靱帯の強度は戻ったとしても、メスを入れた事によるダメージが消えているわけではない。
どの方法の手術をしたとしても骨に穴を空けたり、関節も侵襲されているはずだ。
その影響で現に多くの選手がトミー・ジョン手術後、一時的にも大きく肘の可動域が低下している。
肘の角度が1度でも変わるものであれば、投球動作では非常に大きな問題となる。
伸びるはずの肘が伸びなくなれば、ボールも投げづらくなるだろう。
それと同様に1度だけでも肘が伸びなくなるだけで、肘以外の場所でその1度を補正しなければならなくなる。
その部位は人それぞれで、体幹の回旋だったり、前腕の回内動作であったりする。
もしかすると大谷選手の身体の中では前腕の回内動作で肘の微妙な可動域低下を補っていたかもしれない事が考えられる。
その事によって屈曲回内筋群に負担がかかったのかもしれないと考えられる。
しかし、これはおそらく本質的な問題ではないはずだ。
右屈曲回内筋群損傷を招いた最大の原因は左二分膝蓋骨の影響だと考える
今回右屈曲回内筋群損傷を招いた原因は昨年手術した左膝の二分膝蓋骨(分裂)膝蓋骨の手術の影響が高いと私は考えている。
その理由として、この2つが挙げられる。
今回の怪我の原因が膝の理由
- アストロズ戦にて足が安定せず制球を乱す場面が多々あったから。
- 左膝手術以前に右肘に負担をかける原因が膝にあった可能性があるから。
これらのことを解説する為には、まずはみなさまに投球動作について簡単なメカニズムをご紹介していく。
投球動作のメカニズムと肘への負担について
まず誰でも投球動作が分かりやすいように投球動作を以下の4つのフェーズに分けてみた。
投球動作4つのフェーズ
- セット
- コッキング
- アクセラレーション〜リリース
- フォロースルー
このフェーズに合わせて、仮に150km/h出すために50の力が必要な場合の力の流れを簡単に示していく。
まずセットの段階で力が10 たまるとする。
次にコッキングにかけて、重心が前にいく事によって力が20たまる。
アクセレレーションにてさらに力が20たまる。
ここまでで50の力がたまる事でリリース時に150km/hの速球が放つ事ができる。
150km/hの速球が放つ事ができるという事は『作用・反作用の法則』によって身体にも同じ力が加わってしまう。
それの反作用の力を逃すためにフォロースルーを行う。
超簡単に説明すると投球時このような力の流れが起きている。
そして、肘に負担がかかりやすい時期がアクセレレーション〜リリースの時期である。
特にフォロースルーがうまく出来ないと、アクセレレーション〜リリースでの負担が肘にかかってしまう。
POINT
- 投球時の肘への負担はアクセレレーション〜リリースかかる。
- 投球時の肘への負担はフォロースルーで逃す。
- 下半身が安定していなければ、フォロースルーがうまく出来ず、肘に負担がかかりやすい。
つまり、下半身がぶれない上で、腕をしっかり振ってフォロースルーが行わなければ投球時に生じる反作用で肘に負担がかかりやすくなってしまう。
これは球速が速ければ速いほど負担が大きい。
アストロズ戦にて足が安定せず制球を乱す場面が多々あった事から、この現象が起きて屈曲回内筋の損傷を招いた事が考えられる。
左二分膝蓋骨(分裂膝蓋骨)が右屈曲回内筋損傷を引き起こしやすくする因果関係について
前述したとおり、下半身が安定しなければフォロースルーがうまく出来ず、肘に負担がかかりやすくなる。
ここで思い出していただきたい。
過去に大谷翔平選手は二分膝蓋骨(分裂膝蓋骨)の手術をしている。
これを超簡単に説明すると
何かしらの影響で膝蓋骨(お皿の骨)が分裂して痛みをだす。
手術としては摘出するか、ボルトでとめるか、ドリルで穴をあけて(ドリリング)骨の癒合を促進するかを選択する。
いずれの場合でも膝の関節にメスを通す事になる。
つまり、膝も肘の手術同様にトラブルが起きやすい環境になっている事は間違いない。
※以前こちらの記事にて、大谷翔平投手が手術した「二分膝蓋骨」について詳しく解説しております。
-
大谷選手が膝の手術!?二分膝蓋骨とはどのような症状なのか?
この記事はこのような方にオススメ 二分膝蓋骨(分裂膝蓋骨)について知りたい方。 二分膝蓋骨(分裂膝蓋骨)の治し方を知りたい方。 毎日の習慣で朝にラジオを聞いているのですが、そこで野球の大谷選手が膝の手 ...
そしてもう一つ思い出してほしい。
それは、
左膝の手術前に右肘のトミー・ジョン手術
をしているという事だ。
その事実をどう捉えるかは人それぞれだが、私はかなり以前から左膝に何かしらのトラブルが生じていたのではないのかと考えてしまう。
考察
- かなり以前より左膝に本人の自覚のないトラブル。
- 2018年、左膝の影響?によって右肘の手術。
- 2019年、左膝の痛みが表面化して手術。
こうは考えられないだろうか?
もしこれが当たっていればやはり、
今回の怪我の考察
- 左膝の不安定性の残存によるフォロースルーが出来ない。(=制球のみだれ)
- フォロースルーの乱れにより、アクセレレーション〜リリースの時に肘への負担増。
- トミー・ジョン手術の影響により、肘の負担がかかりやすい環境も後押し。
- 屈曲回内筋群の損傷へ。
このような考察ができてしまう。
もしこの考察が当たっていたとしたら…
今回の怪我はあくまでも序章となってしまう。
つまり、早急に安定した左膝及び安定した足や股関節にしなければ、160 km/hを繰り出す大砲の威力に肘が耐えられず壊れてしまう結果となると私は危惧する。
まとめ
今回は大谷翔平投手に生じた屈曲回内筋群の損傷の原因について考察した。
- 屈曲回内筋群の損傷はアクセレレーション〜リリース、フォロースルーの時期にかけて痛めやすい。
- 前腕や肘に負担がかかる原因は安定したフォロースルーができないから。
- 安定したフォロースルーの条件として、左下肢の安定性が必要。
- 大谷翔平投手の場合、左膝の手術の影響がフォロースルーに悪影響を及ぼしその結果右屈曲回内筋群の損傷を招いたと考えられる。
投げては160 km/h以上だし、打ってはとてつもない飛距離を叩き出す。
そんなとてつもない身体能力があるからこそ、肘や膝の手術を行っても復帰できるレベルまで回復されている。
しかし、確実に身体は以前とは違う状態になっているはず。
少し歯車がズレれば、時計が動かなくなるように、右肘や左膝、もちろん右足の手術の影響でズレた身体の動きの感覚と機能をどう戻すかが今後の鍵となるはずだ。
それが修正しきれなければ、おそらく右肘のトラブルは続くだろう。