肩が痛くて整形外科に受診されると、四十肩・五十肩いわゆる肩関節周囲炎と診断されることが多い。
そして、このようなアドバイスを受けます。
四十肩・五十肩だから「アイロン体操」をやりましょうね。前傾して、腕をぶらぶらさせる方法です。
アイロン体操いわゆる(コッドマン体操」をやると四十肩・五十肩の改善につながりますよと言われることが多いのです。
アイロン体操(以下コッドマン体操と呼ぶ)というのは、遠い昔にコッドマンという肩関節に精通した方が作られた体操です。
方法は
- 前傾になって腕をぶら下げて、肩のリラクゼーションをとりましょう。
- その状態で、肩の動きを出していきましょう。
というものです。
確かにリハビリの現場でも、コッドマン体操が効果的とうたわれています。
ですが、私はこのコッドマン体操には否定的な意見です。
全員にやるなとは言いません。
ですが、やらなくても良い体操だと思っています。
なぜなら、肩の構造と四十肩・五十肩の病態を考えると、コッドマン体操は原理原則に反するからです。
そこで今回の記事では、コッドマン体操をやらなくても良い理由について簡単に解説していきますのでぜひ最後までお付き合いください。
そもそも四十肩・五十肩は関節が障害される病気
そもそも四十肩・五十肩というは、関節が障害されて、治る過程で硬くなってしまう病気です。
多くの方が筋肉がこわばってしまって、動かなくなると考えられていますが、実はそうではありません。
分かりやすく四十肩・五十肩を理解するために、肩の構造からみていきましょう
肩の構造を簡単に解説すると、次のようになります。
- 皮膚
- 筋肉(アウターマッスル)
- 骨(肩甲骨)
- 滑液包(骨と筋肉が擦れないようにするための組織)
- 筋肉(インナーマッスル)
- 関節包(骨と骨をつなぎとめる組織)
- 骨(上腕骨)
上記のように、肩はミルフィーユみたいに組織がおり重なっています。
四十肩・五十肩というのは、第4層の滑液包と第5層のインナーマッスルが癒着して動かなくなったたり、第6層の関節包が障害されて硬くなってしまう病気の事をさします。
つまり、筋肉が硬くなる云々の病気ではないという事になります。
コッドマン体操の効果は肩を「リラックスさせること」と言われている
コッドマン体操は肩をリラックスさせる効果があり、かたまった肩の動きが改善されるのでやっていこうと言われることが多い。
方法としては、
- 身体を前傾する
- 腕をぶら下げる
- 脱力する
- 腕を前後に振る
- 円を描くように腕を振る
効果としては、
- 前傾して腕をぶら下げることで、筋肉や関節をけん引するストレッチがかかる
- 前傾状態で腕を前後に振れば、肩甲骨と上腕骨との間にすきまができて、ぶつからずに肩の運動が行える
つまり、コッドマン体操を行えば、ストレッチもされるし肩の骨同士がぶつからないから安全だよ!と言われているのだ。
しかし、肩の原理原則を考えると、これは大きな間違いだと私は考えています。
逆に四十肩・五十肩の方に対して、コッドマン体操をおこなってしまうと、より硬くなる可能性が考えられるのです。
その理由を、次の章で解説していきます。
コッドマン体操は別にやらなくても良い。肩の動きが悪くなる可能性が考えられるから
コッドマン体操は、四十肩・五十肩に良いよ!と言われていますが、私はやらなくても良いと思います。
なぜなら、やらなくても四十肩・五十肩が改善される方が多いですし、むしろコッドマン体操をやることで症状が悪化する可能性が考えられるからです。
コッドマン体操で四十肩・五十肩の症状が悪化する理由を以下の順にて解説しいきます。
- 肩の構造的に四十肩・五十肩になると必ず硬くなり、牽引ではリラクゼーションをとれないから
- 四十肩・五十肩の肩の組織的に、牽引やストレッチを加えると症状が悪化してしまうから
肩の構造的に四十肩・五十肩になると必ず硬くなり、牽引ではリラクゼーションをとれないから
四十肩・五十肩になると絶対に肩は硬くなります。
そして、大原則として、硬くなってしまった肩にたいして、ひっぱってもリラクゼーションをとることはできないのです。
肩のリラックスを図るのであれば、腕を支えなければ、原理原則に合いません。
その理由を説明する前に、まず大原則として、人は安定を求める生き物ということを知っておいてください。
安定を求める生き物というのは
- 安定した状態=リラックスできる(力が抜ける)
- 不安定な状態=緊張する(力がはいる)
という意味です。
例えば、周りが開けたアスファルトの地面では、無理なくリラックスしてたつ事ができますよね?
ですが、40mの高さの崖の先端に立てと言われたらどうでしょうか?
いつ落ちるのかわからない不安定な場所なので緊張してしまいますよね?
身体は常にこのような反応を起こしているのが原理原則となります。
その観点でいうと、肩関節というのは、骨だけでみたら「不安定な関節」となります。
なぜなら、肩甲骨の受け皿(青色)に対して、上腕骨の球体(赤色)の方がはるかに大きいからです。
肩はたくさん動かせるようにするために、骨同士は完全にはまっていない関節となっています。
つまり、そもそもの構造が不安定なのです。
では、どうやって骨同士をつなぎとめて関節にしているのでしょうか?
復習となりますが、こちらの
- 皮膚
- 筋肉(アウターマッスル)
- 骨(肩甲骨)
- 滑液包(骨と筋肉が擦れないようにするための組織)
- 筋肉(インナーマッスル)
- 関節包(骨と骨をつなぎとめる組織)
- 骨(上腕骨)
第6層にある関節包となります。
この関節包があることで、肩は安定することができるのです。
そのため、体重の6%もある腕(50kgの人ならうでの重さは3kg)を筋肉がリラックスした状態で支えることができるのです。
ここで四十肩・五十肩は治る過程で、なぜ動きが硬くなってしまうのか?を考えなければいけません。
冒頭でもお伝えしたように四十肩・五十肩は、関節包が障害される病気です。
つまり、簡単に言えば、関節包に傷ができて、炎症をおこしてしまっている状態です。
では、単純に考えて関節包が傷ついて機能しなくなったらどうなるでしょうか?
想像できますか?
関節包の役割は骨と骨をつなぎとめることです。
それが機能しなくなります。
つまり、肩がはずれてしまう方向になってしまうのです。(骨同士では安定がとれないので)
これは不安定な状態ですよね?
肩が不安定になれば、安定を求めようと戦略をたてます。
その戦略が、関節包を硬くしよう!というものです。
なぜなら、肩甲骨と上腕骨だけでは肩を支えられないから。
関節包が硬くなる戦略をとらなければ、腕をぶら下げているだけで脱臼してしまいます。
そのため、四十肩・五十肩は肩を硬くして治していく病気だと考えられるのです。
では、以上のことを踏まえて、コッドマン体操について考えてみましょう。
コッドマン体操は腕の重さで、肩に牽引やストレッチをかける働きがあります。
つまり、腕を下へ下へ、肩甲骨と上腕骨を引きはなす方向へ!という力をかける働きがあるのです。
ここで、ちょっとまってください。
そもそも四十肩・五十肩になると、肩内部は安定させるために関節包を硬くする戦略をとっているはずです。
肩甲骨と上腕骨が引きよせて、関節を安定させるために。
つまり、コッドマン体操を行う事でこの2つの現象が起きてしまうのです。
- 肩では関節包を硬くして、肩甲骨と上腕骨を引き付けようとする働きが起きる
- コッドマン体操では、肩甲骨と上腕骨を引き離す力を加える働きが起きる
このように考えると、コッドマン体操は自然治癒と逆行する働きがありますよね?
安定・不安定の観点からお話すると次のように言い換えられます。
- 肩では「安定させる」ために関節包を硬くして、肩甲骨と上腕骨を引き付けようとする働きが起きる
- コッドマン体操では、肩甲骨と上腕骨を引き離す力を加えている。つまり、肩の構造上「不安定」にさせる力をあたえている
この章の冒頭でもお伝えしたように
- 安定した状態=リラックスできる(力が抜ける)
- 不安定な状態=緊張する(力がはいる)
というのが原理原則です。
では、コッドマン体操ではどうでしょうか?
不安定にさせる力が肩に働いているので、コッドマン体操の趣旨である「肩のリラックス」はとれるわけがないのです。
むしろ、不安定な方向へ力をくわえているので、逆に筋肉が緊張してしまったり、関節包がよりかたくなってしまいます。
肩をリラックスさせたいのであれば、痛い方の腕を反対側の腕で支えてあげたほうがよほど良いです。
なぜなら、骨と骨が引き付けようとする働きが発生し肩が安定するからです。
以上のことから、四十肩・五十肩の人はコッドマン体操をやらないほうが賢明かと。
四十肩・五十肩の肩の組織的に、牽引やストレッチを加えると症状が悪化してしまうから
次にコッドマン体操が好ましくない理由を、四十肩・五十肩の組織的な特徴からも考えていきます。
コッドマン体操は四十肩・五十肩の炎症期や拘縮期に行いましょうと指導を受けることが多いです。
四十肩・五十肩は3つの時期に分けることができます。
- 炎症期(痙縮期):肩が痛くなってから2か月
- 拘縮期:肩が痛くなってから2~6か月
- 緩解期:肩が痛くなってから6ヶ月~1年
また文献によれば、このような記載があります。
拘縮期は肩関節包の線維化と肥厚が発生し,関 節包の容量が減少することにより疹痛が持続し可動域制限が進行する.これは,結合組織創傷治癒の リモデリング硬化期に相当すると考えられ,線維芽細胞と膠原線維が増殖し毛細血管が退縮する.関節包が脆弱化した時期に,過度な外的ストレスが加わると癒痕内の膠原線維が断裂し,新たな炎症が惹起することが知られている.繰り返す刺激により線維芽細胞が活性化して不規則な方向に膠原線維を合成し,慢性炎症となり関節包はさらに肥厚すると考えられる.
結合組織の創傷治癒より見た肩関節周囲炎の病態と治療
簡単に解説すると、
文献解説
四十肩・五十肩の拘縮期(肩が痛くなってから2~6か月)は組織の修復段階であるため、関節包が弱くなっている。
そのため、ストレスが加わると壊れてしまい、再度炎症状態に陥ってしまう。
さらには、その状態をくりかえすことで、より関節包が硬くなってしまう。
ということになります。
つまり、四十肩・五十肩の炎症期や拘縮期に、コッドマン体操などによって、肩に牽引やストレッチを加えてしまうとより症状が悪化してしまうのです。
さらには、関節がより硬くなってしまう事が予想されます。
これらのことから、四十肩・五十肩にコッドマン体操をおこなってしまうと、症状の悪化だけでなく、関節が硬くなることが考えられるのでやらないほうが賢明です。
では、どのように四十肩・五十肩を治していけば良いのでしょうか?
初めて四十肩・五十肩になってしまった方のために、四十肩・五十肩の全期間のリハビリ方法をこちらの記事にて解説しました。絶対に役に立ちますので、肩の痛みでお困りの方は是非ご覧下さい。
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【理学療法士監修】はじめて四十肩・五十肩なった人のためのリハビリパーフェクトガイド! - ZENLOG|60代以上の膝痛解決ブログ
この有料記事を読むと得られるメリット 3つの時期がある四十肩・五十肩の改善方法が全てわかる。 四十肩・五十肩が原因で起きている夜間痛の改善方法と夜の寝方を知ることができる。 四十肩・五十肩で肩が動かな
seitai-yawara.com
まとめ
今回の記事では、四十肩・五十肩のリハビリでよくおこなわれるコッドマン体操はやらないほうが良い理由について解説しました。
POINT
- 四十肩・五十肩になっている肩は安定した状況を作るために、関節包が硬くなる戦略をとっていると考えられる
- コッドマン体操は、肩に対して牽引やストレッチを用いているので、肩の骨同士を引き離す作用を与えている。つまり、不安定な状況を作り出してしまう
- 四十肩・五十肩の拘縮期の関節包などの組織は、脆弱な状態であるため、コッドマン体操によって牽引やストレッチを加えてしまうと症状の悪化や関節を硬くしてしまう恐れがある
四十肩・五十肩になり、肩が硬くなってしまったので、ストレッチをして柔らかくしよう!コッドマン体操でひっぱりながら動かしていこう!という考えは、分からないでもないです。
しかし、物事には原理原則があります。
なぜ、四十肩・五十肩は硬くなってしまうのか?をそれを考えると、関節の安定を図るために硬くする戦略をとっているにすぎません。
身体が治すためにその反応を出しているのです。
コッドマン体操はその身体の反応を無視した体操となってしまいます。
身体が治したいという反応と逆行したことをやって改善されるのでしょうか?
私の経験上改善されることは少ないです。
皆様に絶対にやるな‼とはいいません。文献で証明されたことではないですからね。
しかし、現場での経験や原理原則を考えれば、改善させる行為ではないと考えらます。
絶大的に効果があるわけではないので、コッドマン体操は別にやる必要はないです。
やらなくても、四十肩・五十肩を改善されている方はごまんといますからね。
最後までお付き合いありがとうございました。