肩の柔軟性を改善していくために『肩』ばかりをケアする人が多いが、常々それはどうなのか?と考えてしまう。
肩の構造は見た感じ単純なようで実はそうではない。
構造的にも複数の骨と筋肉から構成されており、非常に色々な動きが出来る関節である。
また股関節とは違い、体重がかかる関節ではないので非常に不安定な関節である。
言い換えれば、とてもグラグラした関節であり、外れやすい。
肩が他の関節よりも脱臼を起こしやすいのは構造的に不安定であるが故なのだ。
その不安定な肩関節をたくさんの靭帯や筋肉で支えているというのだからすごい。
そんな肩に対して柔軟性を改善していきたいと思ったら、肩ばかりに注目をしてはいけない。
人間という構造物の土台となるのが、体幹と胸郭・骨盤である。
家で例えれば骨組みと地盤的な存在である。
その土台をより遠くに運ぶ目的で歩くために足が発達した。
またその土台により栄養を与える目的で、物をつかめるように手が発達した。
つまり、手足は身体の付属品的なものだ。
この土台となる体幹が動かなければ、肩も十分に動かないことになる。
そこに着目していない人が非常に多い。
身体には260個もの関節があるのだからいたしかたないことではある。
今回はそのような体幹の柔軟性が肩関節に及ぼす影響を分かりやすく解説していく。
肩の動きのメカニズム
『体幹』の柔軟性が『肩』の動きに与える影響について説明する前に、まずは肩関節の構造について理解したほうが良い。
その次に肩関節がどの様に動いていくのかを知ろう!
このように肩の動きのメカニズムを理解することで肩の柔軟性を改善するための鍵が明確になってくる。
肩の構造について
はじめに肩関節の骨の構造について解説していく。
一般的に肩と呼ばれている場所は肩甲骨と上腕骨という骨からなる、肩甲上腕関節と呼ばれる関節である。
しかし、肩というのはもっと広い意味でこのような関節も含まれる。
- 肩甲骨と鎖骨からなる『肩鎖関節』。
- 胸骨と鎖骨からなる『胸鎖関節』。
- 肩甲上腕関節。
- 第二肩関節。
- 肩甲胸郭関節。
上記の下2つの「第二肩関節」「肩甲胸郭関節」は実際に骨と骨で関節をなしている訳ではないので、「機能的関節」と呼ばれる。
以下にそれぞれの関節をご紹介する。
『肩鎖関節』は鎖骨と肩甲骨で関節をなしている。
『胸鎖関節』は胸の骨である胸骨と鎖骨で関節をなしている。
『肩甲上腕関節』は一般的に知られている肩関節で、肩甲骨と上腕骨で関節をなしている。
『第2肩関節』は肩甲骨の肩峰と呼ばれる部分と上腕骨の間の関節を指す。上記で説明した通りこれは機能的肩関節であり、実際の関節ではない。
『肩甲胸郭関節』は胸郭と肩甲骨で出来ている関節である。この関節も機能的肩関節である為、実際の関節ではない。
この様なたくさんの関節がうまく機能することによって肩の複雑な動きが実現されるのだ。
肩甲上腕リズムとは?
それではこの様な肩の骨から作られるたくさんの関節はどのように動いているのだろうか?
一番有名なのが「肩甲上腕リズム」と呼ばれる動きの法則がある。
これはInmanと呼ばれる昔の方がみつけた法則で、肩を上までバンザイする時の動きは、肩甲上腕関節:肩甲胸郭関節の動く比率は2:1になるとされている。
つまり、肩を上までバンザイする角度を180°と仮定すると肩甲上腕関節では120°、肩甲胸郭関節では60°の動きを担っていることになる。
これが『肩甲上腕リズム』と呼ばれるものだ。
この事から、肩が動く際は腕の骨である上腕骨だけでは十分に動かない。
肩甲骨も動いてこないと肩は良い動きが出来ないということが分かる。
つまり上腕骨の土台は肩甲骨であるとも言える。
肩甲骨と胸郭の動きの関係性
肩甲骨は上腕骨の土台とお伝えしたが、肩甲骨の土台はどこになるのだろうか?
冒頭でも説明したように体幹つまり胸郭が肩甲骨の土台となる。
この胸郭が動かなければそもそも肩が動かないのだ。
それを証明するかのようにこの様な文献報告があるのでご紹介する。
肩関節の挙上の初期には、胸郭はほとんど動かなかった。その後、肩関節挙上角度の変化に比べると遅れて胸郭は動き、この動きのパターンは、これまで報告されている肩甲骨の動きのパターンと類似し、120°から胸郭の動きは大きくなった。
内容としては肩が動く初期では胸郭は動かないが、120°以降からは胸郭の動きも伴っているというものになる。
つまり肩(上腕骨)を動かす為には、肩甲骨が土台となって動かないといけないだけではなく、肩甲骨の土台として体幹・胸郭も動かなければ肩は十分に動かないことになる。
これが体幹や胸郭が肩の土台になっている所以となる。
体幹の柔軟性が肩の動きに与える影響とは?
上記では肩が動くメカニズムである「肩甲上腕リズム」と「肩甲骨と胸郭の動きの関係性」について解説したが、実際の日常生活での動作やスポーツでの動作ではどう体幹の柔軟性が関わっているのかを解説する。
どの動作もやはり体幹や胸郭が動かない限り、肩が満足に動かないことが分かるだろう。
バンザイと体幹動きの関係
これは「肩甲骨と胸郭の動きの関係性」の項目でも説明した通り、体幹が動かなければ肩は動いてこない。
実際にバンザイするとこの様な感じになる。
背骨がしっかりと反っているため肩が気持ちよく挙がっていることが分かるだろう。
しかし、背骨を丸めて動かないようにするとどうだろうか?
一目瞭然で肩が動かなくなることが分かるはずだ。
この状態では四十肩や五十肩、腱板損傷などのリスクが高くなってしまう。
※四十肩や五十肩に関する情報はこちらの記事をご参考にしてください。
これらの肩への負担を軽減させる為にはやはり体幹の柔軟性を改善していく必要があるのだ。
パンチの動作と体幹の動きの関係
それでは、空手やボクシングでのパンチ動作などではどうだろうか?
これは野球などの投擲種目でも同様なことが言えるので知っておいてほしい。
体幹の回旋を使用して、パンチを打つとこの様な感じになる。
しかし、もし体幹の回旋が出来なかったらどうなるだろうか?
これも比較してみていただければ一目瞭然だ。
パンチのリーチが短くなる分、威力も弱くなる。
これは投球動作でも同じことが言えて、一生懸命力いっぱい投げているのに体幹の回旋が出ていないことによって、大きな力を生み出せなくなってしまっているのだ。
つまり、空手やボクシングのパンチも野球の投球動作も体幹の回旋が出来なければ、良いパンチや力強い玉を投げることは難しくなってしまうのだ。
むしろ力を入れすぎて、肩や肘に負担をかけすぎてしまい、怪我につながってしまう。
※野球肘に関する情報はこちらの記事にてまとめてありますので是非ご覧ください。
より強い打撃やより良い投球フォームにする為には、肩の柔軟性の改善よりも体幹の柔軟性改善を最優先に目指した方が良い。
ゴルフのテイクバックと体幹の動きの関係
道具を使用したゴルフではどうだろうか?
ゴルフのフォロースイングについて見てみると、体幹の回旋がうまく出来ていればクラブが頭の後ろまでいく。
しかし、体幹の回旋がうまく出来ないとこの様な感じになる。
いわゆる手打ちという状態だ。
これに対して肩の柔軟をやってもスイングが改善されるわけではないことが分かる。
この状態ではボールに上手く力は伝えられない上に飛距離も伸びない。
それに加え、ダフる確率も増し、ゴルフ肘になってしまう。
※ゴルフ肘に関する情報は是非こちらの記事をご覧ください!
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まとめ
今回は体幹の柔軟性が肩の動きに影響を与える理由について解説した。
- 肩の動きのメカニズムとして、「肩甲上腕リズム」と「肩甲骨と胸郭の動きの関係性」がある。
- 肩の土台は肩甲骨である。肩甲骨の土台は体幹と胸郭になる為、体幹の柔軟性は大切である。
- どのスポーツの動作に関しても、肩の動きを出す為には体幹の動きが大切となる。
四十肩や五十肩などで肩の動きを改善していく為にはやはり体幹や胸郭の動きの改善が必要となる。
これは野球やゴルフ、テニスなどで生じたトラブルでも共通な解決策である。
痛めた場所のみに囚われず、もっと広い視野で動作を改善していくことが大事である。
どの動作も起点は体幹や胸郭から始まる。
肩の動きや柔軟性を改善したいのならば、体幹や胸郭から柔軟性を改善していく事が大切である。
訂正:2019/03/27