- なぜ四十肩・五十肩になったらストレッチを行ってはいけないのかについて
- ストレッチが肩の痛みと炎症を長期化させる原因となる理由について
- 四十肩や五十肩に行うストレッチによって組織が傷つくメカニズムについて
現在、四十肩・五十肩で苦しんでいる人は200~300万人にも及ぶ。
日本では40代や50代の方に多いことから、俗称として四十肩・五十肩と呼ばれているだけであり、正式には肩関節周囲炎という病名がつけられている。
四十肩・五十肩になってしまうと肩が動かない、夜中痛みが出るなどの症状が現れる。
また服が着づらい、洗濯物が干しづらいなどの日常生活の動作にも支障が出てしまう。
そんな四十肩・五十肩に多くの人が『ストレッチ』を行い症状を悪化させてしまっている。
なぜ一般的に良いとされているストレッチを行うと症状が悪化してしまうのか?
今回は四十肩・五十肩にストレッチを行ってはいけない理由について詳しく解説していく。
※柔YAWARAが動画内にて「なぜ四十肩・五十肩に対してストレッチをしてはいけないのか」について詳しく解説しております。
四十肩・五十肩になったら絶対にストレッチを行ってはいけない!
結論
伸びた感じが気持ちいいから。
伸ばすと治る気がする。
そのような事をおっしゃって無理やりストレッチをしたり、グリグリ患部を押す方が非常に多い。
しかし、これらのことは症状を悪化させる原因となるので絶対に行ってはいけない。
四十肩や五十肩にやってはいけないこと
- 痛みが出るようなストレッチ
- 痛いリハビリ
- 痛みが助長される動作
これらの行為は自然治癒を妨げるものとなる。
四十肩・五十肩になりたての頃は特に、肩の組織が非常にデリケートになっているため、上記のことは絶対にやらないでいただきたい。
痛みが出るということは身体からの危険信号であり、治すよりも破壊する行為となるからだ。
参考文献:結合組織の創傷治癒より見た肩関節周囲炎の病態と治療
ストレッチが肩の痛みと炎症を長期化させる原因となる
なぜ四十肩・五十肩の痙縮期(炎症期)が長期間続いてしまうのか?
その原因は肩を痛いところまで我慢して動かしたり、無理矢理ストレッチを行なうことで自分で肩内部の組織を傷つけてしまっているからである。
実際に体感していただきない。
まずは自然に動きが止まるところまで肩を動かす。
※実験の為、痛みがない肩で行ってください。
その状態まで来たら、今度は伸びる感覚が出るところまで肩に抵抗を加えていく。
これがいわゆる『ストレッチ』だ。
多くの方はこの『伸びた』感覚が良いと錯覚されている。
しかし、これにさらに抵抗を加えると『痛み』に変わるのが分かるはずだ。
つまり『伸びた』感覚は痛みが出る一歩手前の防御反応なのだ。
痛みの一種と言っても過言ではない。
自然に動きが止まったところで肩の『組織』的に伸びる限界を迎えている。
『伸びた』という感覚が出た時点で組織は『損傷』を起こしているのだ。
いまいちピンと来ていない人に向けて紙を用いてもっと簡単に説明していく。
この紙を引っ張ると、微細にやぶれてしまうのが分かる。
これがいわゆる『伸びた』感覚がするストレッチだ。
さらに紙を引っ張ると完全に破れてしまう。
これは痛みが出るところまで伸ばすことと同じで、組織の『損傷』になるのだ。
ストレッチで『伸びた』感覚は前述した通り、組織が損傷する前の警告サインもしくは軽度に損傷が起きているサインと考えた方が良い。
その為、四十肩・五十肩になったら、引っ張ったり、ストレッチをする行為は避けた方が良い。
もちろん痛いところまで動かすのもご法度である。
以上のことから、四十肩や五十肩で肩内部に傷が付いている人が、『伸びる』感覚が出るところまで伸ばすと、さらに傷が悪化する証明となる。
それに伴って、四十肩・五十肩の痙縮期が延々と長引いてしまうのだ。
四十肩・五十肩の3つの治癒過程
四十肩や五十肩の痛みは目には見えないが、実は肩内部の傷によるものだ。
その為、擦り傷や切り傷が治る過程と同様に四十肩や五十肩にも治る過程が存在している。
大きく3つに分けられるので解説していく。
四十肩・五十肩の3つの治癒過程
- 痙縮期(炎症期)
- 凍結期(拘縮期)
- 緩解期
この3つの時期について下記に詳しく解説した。
痙縮期(炎症期)について
この時期の主な期間と症状が以下のとおりだ。
痙縮期(炎症期)の詳細
- 期間:痛みが生じてから2週間が最も痛みが強く、0~2ヶ月の期間を指す。
- 症状:痛みが非常に強い時期であり、夜間痛や激しい痛みで肩が動かせないのが特徴である。
- 注意点:運動やストレッチ、牽引などえ痛みが酷くなることがある。その為、安静を保つことが第一。
凍結期(拘縮期)について
この時期の主な期間と症状が以下のとおりだ。
凍結期(拘縮期)の詳細
- 期間:痛みが生じてから2~6ヶ月の期間の事を指す。厳密には2週間ほど経てば組織が修復してくる過程で肩の関節は固くなってくる。
- 症状:徐々に傷ついた肩の組織が治ってくる時期。それに伴い徐々に肩の内部の靭帯が硬くなってくる。この時期までにしっかり管理していれば肩の動きが比較的良くなりやすい。
- 注意点:多くの人はこの時期に痛いこと(痛い所まで動かしたり、過度なストレッチ)をすることで、組織を傷つけ肩の動きを悪くしている。
緩解期について
この時期の主な期間と症状が以下のとおりだ。
緩解期の詳細
- 期間:痛みが生じてから6ヶ月〜12ヶ月以上の時期のことを指す。もちろんこれは一つの目安であり症状が軽い方は、2ヶ月ほどでこの時期に差し掛かる。また暴力的なリハビリを行っている人はこれよりも遅い時期になってしまう。
- 症状:肩の痛みは基本的に落ち着き、徐々に肩の動きが改善してくる。
- 注意点:動く範囲で徐々に動きを改善していく必要がある。無理なストレッチや痛みが出るリハビリを行っている人は、この時期になっても肩が動きが改善して来ない上に、痛みが生じて痙縮期に逆戻りする場合があるので要注意。
四十肩・五十肩の自然治癒が阻害されるストレッチのメカニズムを模型で解説
上記でお伝えしたように自然治癒力が妨げられるのでストレッチや暴力的なリハビリは行わないほうが良い。
具体的にストレッチを行うことによってどのように組織が損傷するのか?
これについて詳しく模型を使用して解説していく。
正常な肩の動きを模型で解説
肩の組織は柔軟性があり、関節に適度な隙間があるので動くためのゆとりがある。
その為、肩を十分に動かすことが出来る。
四十肩・五十肩の動きを模型で解説
仮に肩に損傷が起きたとする。(肩を固定しているテープをハサミで切る。)
損傷した組織はまず重なり合い修復しようとする。
この時期が痙縮期(炎症期)に相当する。
写真の緑で塗られたマスキングテープのように、再び損傷しないように硬い組織に置き換わる。
この時期が凍結期(拘縮期)に相当する。
この状態が四十肩・五十肩の肩内部の状態だ。
硬い組織に置き換わると肩の可動域が著しく低下する
普通の肩の組織よりも硬くなり、肩の関節のゆとりがなくなる。
その結果、通常の肩の動きよりも動きが悪くなってしまう。
もし無理やり肩を動かすとどうなるのか?
無理に動かせば、組織が再び壊れてしまう。
もちろん痛みも出てしまう。
そして、また炎症が起き、最初の痙縮期(炎症期)に逆戻りしてしまう。
結果、肩の治りが遅くなる。
四十肩や五十肩で1年以上かかってしまう人の多くは、組織が修復する前に暴力的なストレッチをされて、肩の内部を再び損傷しているのだ。
これらのことから四十肩や五十肩になった時には、絶対に無理やりストレッチを行ってはいけないのだ。
※四十肩や五十肩の改善法やリハビリ方法に関してはこちらの記事がオススメです。上記の理論に則って、四十肩・五十肩の修復期間に応じた適切なリハビリを詳しく解説しております。四十肩・五十肩でお悩みの方はぜひご参考にしてください。
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四十肩や五十肩にストレッチを行ってはいけない理由についてこのような文献を参考にしました。
強い力で急に引っ張る(manipulation)より弱い力で長時間伸張(prolonged stretching)するほうが効果的であるということが判明しているが、いずれの方法によっても伸張直後に可動域を測定すると多くの場合伸張前より制限が増加している。これは伸張運動によって軟部組織に微細な損傷が起こり、瘢痕組織となって治癒することでその伸展性を失うことによる。
引用:SJF関節ファシリテーション第2版 編者 宇都宮初夫 発行者 池田和博 発行所 丸善出版株式会社 p3 l7-14
上記の内容を一般の方にもわかりやすく、噛み砕いて説明しております。
まとめ
今回は四十肩や五十肩に対してストレッチをしてはいけない理由を理学療法士である私の臨床的な経験と文献をもとに解説した。
- 四十肩・五十肩にストレッチを行う事で症状は良くなるどころか組織の損傷を招き悪化してしまう。
- ストレッチが四十肩・五十肩の痛みや炎症を長引かせる原因となる。
- ストレッチによって肩内部の自然治癒が阻害されて四十肩や五十肩の改善を遅らせる原因となる。
四十肩・五十肩になると痛みでとても不安になる。
しかし、安心してほしい。
人には自然治癒力がある。
何もしなくても、自分で修復する能力が人間には備わっている。
四十肩・五十肩の3つの治癒過程の特徴に合わせて、正しくリハビリを行っていけばさらに改善も早くなることが多い。
肩が痛くなった人は無理なストレッチを治療だと勘違いしないように注意していただきたい。
正しい知識を身につけ、自分の修復力に応じて四十肩・五十肩を改善させていこう。