理学療法士の方は、とても熱い方が多い。
僕を指導してくださった職場の先輩も、実習先の先生もみんな熱い方ばかりだ。
それだけ治療に熱心な方が多いのだろう。
そんな理学療法士の活動の幅は年々広がっていると感じる。
病院での勤務はもちろん、老人保健施設への勤務、訪問介護、トレーナー活動、ピラティス、ヨガなど色々な場所で理学療法士の名前をみることが多くなった。
しかし本来理学療法とはどういった仕事なのだろうか?
一般人ならまだしも現役の人が答えられないと問題である。
今回はみんなが忘れがちな「理学療法士」という仕事がどのようなものかをまとめてみた。
現役の人は今一度自分が何者なのかを再認識して欲しい。
理学療法は昭和40年に制定された
理学療法士および作業療法士法第一章の第二条より
「理学療法」とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行わせ、及び電気刺激、マツサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう。
出典:理学療法士及び作業療法士法(昭和四十年六月二十九日法律第百三十七号)
簡単に説明しよう。
理学療法とは、手足が不自由な人や手足を無くしてしまった人、骨折された人などに対して、基本的動作能力を改善させる為に、電気や体操、マッサージを行ってもいいですよ!という法律だ。
ここでいう基本的動作能力とは 寝返り 起き上がり 座ること 立ち上がり 立つこと 歩くことをさす。
「なんだ、理学療法って簡単じゃん!」と思っている一般の方へ。
では、足が無い人をどうやって立たせますか?
手足が動かない人に対してどのように寝返りをうたせますか?
そう思うと難しいですよね?
理学療法は専門知識が必要で非常に難しい仕事なのだ。
悲しいことに理学療法は名称独占
名称独占とは別に資格がなくても、人体に危害がなければその業務が行なえますよ!
ただその名称は資格を持っている人しか名乗ってはいけませんよ!という意味。
その反対は業務独占である。
その資格がなければ、業務が行えない事をさす。
医師や看護師などがそうだ。
今もなお日本の「理学療法」は名称独占である。
なぜ名称独占となったのかは、歴史を紐解けば分かる。
戦後、マッカーサー元帥が日本に対する勧告の中に、「リハビリテーション医療の推進」を含めたそうだ。
だが、戦争に負けて焼け野原の日本に理学療法士を育てる財源などなかった。
多くの理学療法士を育てるのは実質不可能な状態だったのだ。
でも、元帥の言うことを聞かないと日本はやばい事になる。
そこで、日本が取った行動が以下のことだ。
古くから日本にいる柔道整復師さんと鍼灸師さんなどにも「リハビリテーション医療の推進」に協力してもらおう!
つまり、お金のない戦後の日本としては、理学療法士の免許を持っていなくても人体に危害を及ぼさない業務もある。
それに理学療法士自体の数も不足しているから名称独占でやっていこう!となったのだ。
でも、ここで疑問を持って欲しい。
物理的な手段(電気使ったり、体操をさせたり、マッサージをしたり)で人の基本的動作能力を改善させてもいいですよと明記されているのは理学療法しかないことに。
また、時代は流れたのだ。
理学療法士の国家試験合格者は年間1万人近く出ている。
日本理学療法士協会 統計情報より
僕が理学療法士になった時で既に8万人近くいたので、今はその倍はいるのではないだろうか。
数は足りている。
いや、溢れているじゃないか。
なぜ名称独占のままなのか…
それすら気づいていない理学療法士がどれだけいるのか…
理学療法士は現状をしっかり把握する目を持ったほうがいいのではないか?
理学療法は治療?訓練?どっち?
理学療法は治療と言って過言ではない。
治療の4原則として、除去・刺激・誘導・補助がある。
除去はお医者様が行う手術である。
手から患者様に刺激をいれたり、動きを誘導したり、動きを助けたりする事は理学療法で出来る。
だから、分類的に理学療法は治療である。
そもそも医学の父 ヒポクラテスは太陽や熱、水の力などの物理的なエネルギーを利用したり、運動をさせて治療をしていた。
また、古くから理学療法は医師の業務の一部として、看護師の診療補助を受けて行われていたという。
法律で定められている理学療法は医療だけだ!
理学療法士および作業療法士法第一章の第一条より
この法律は、理学療法士および作業療法士の資格を定めるとともに、その業務が、適正に運用されるように規律し、もつて医療の普及及び向上に寄与することを目的とする。
出典:理学療法士及び作業療法士法(昭和四十年六月二十九日法律第百三十七号)
現在、保健・医療・福祉領域が総合的システムとして機能するようになったことを受けて、理学療法士の職域も“医療”だけに限定されない時代になってきた。
出典:標準理学療法士学 専門分野 基礎理学療法学 発行者 株式会社 医学書院 編者 内山 靖 P8
まず言葉の意味を理解しよう!
保健とは:健康を守り保つことの意味。
福祉とは:(公的扶助による)生活の安定や充足。の意味。
法律で理学療法士の業務が医療とされているのに、保健だの、福祉だのと職域が広がっているのに疑問をもたなければならないのではないか?
社会のニーズだからと言って、意味もわからずに分野を広げていないか?
最後に
昨今、何が理学療法士なのか、何が作業療法士なのか分からなくなってきている。
つまり、職域のオーバーラップが起きている。
一般の方にとっては、理学療法士?作業療法士?柔道整復師?なにが違うの?と思われているぐらいだ。
現役の理学療法士ですら、作業療法士や柔道整復師との違いを答えられない人が多い。
理学療法士自身が理学療法士とは何かという事をわかっていない…
果たして、それでいいのだろうか?
法律があってないような無法地帯になってはいないだろうか?
働き方が多様化しているのは事実だ。
世の中の流れや社会的な背景も大きく関係しているのだろう。
そんな世の中に流されて、自分の仕事が何なのか答えられないのは非常に悲しい。
ましてや、病院勤務がつらいから、給料が良いので介護施設へ行く。という話を聞くとなおさらだ。
理学療法士は今一度思い出して欲しい。
「理学療法」とは、身体に障害のある者に対して、基本的動作能力の回復を図るため、物理的手段を加えることを許された唯一の法律であることを。
法律で定められている業務は保健や介護ではなく医療であり、理学療法を通じた治療であることを。
理学療法というのは、知識と技術が必要であり、勉強や練習なしで、一朝一夕で身につくものではないということを。
それを踏まえて、自分の働き方を今一度見つめ直して欲しい。
理学療法士を辞めた僕が言うのもなんだが、
たとえ違う分野で働いていても「理学療法士」としての本当の仕事を忘れてはいけない。
そしてなにより患者様の治療に対して、熱くなるマインドを忘れてはいけない。